「贈る言葉」
会津大学学部生227名、博士前期課程50名、博士後期課程1名、合計278名の皆さん、卒業おめでとうございます。
大学を代表して心からお祝い申し上げます。
今日まで本学のキャンパスで共に過ごしてきた皆さんは、これから会津大学を巣立ち、
社会の一員として活躍を始める人、大学院に進学して更に勉学や研究に邁進する人など、
各々の新しい人生が始まります。本日は人生の大きな区切りを意味する日です。会津の街や
キャンパスでの思い出深い学生生活が走馬灯のように頭の中で巡っていることと思います。
さて、本学の初代学長である国井元東大教授は、学長就任の懇願を受けた際に、東大の裏庭にある
外国人の銅像の前で「東京大学は創設期に外国人教師が主導的に教育を担った大学で、銅像は業績を偲んで
弟子たちが建てたものです。もし、世界中の人材を裏でなく表から迎え入れ処遇できる大学が作られるなら、
その大学に行っても良い」と述べられました。この高い国際性を謳った建学の精神は今でも本学に脈々
として伝わっており、本キャンパスは国際性豊かな環境となっています。
この建学の精神が本学の個性そのものであり、本学の卒業生が世界的な場に出た時に大変頼りになると
企業の方からしばしばお褒めの言葉を頂く根拠となっています。
世界はグローバルに一体化する中、従来のように途上国から一方的に頭脳流出をしていく時代は終わり、
先進国と途上国の間で双方向に優秀な人材が交流する頭脳循環の時代を迎えています。この世界が手を
携えて共生するという時代に来ているということを、国際的な環境を備えた本学キャンパスで学んだ
諸君は日々肌で感じていたことではないかと思います。
EUは1987年から域内全体としての人的資源の養成・確保と一体化、そして世界市場でのEUの競争力を
向上させることを目指した人材交流を進める「欧州高等教育圏」の構築を目的としたエラスムス計画
を進めています。また中国では長江学者奨励計画で、優秀な海外在住の人材を呼び戻して国際的な人材の
活躍の場を与える計画を1998年から始めています。こうした国際的な知の競争が行われている中で、
日本でも優れた留学生を獲得すべく「留学生30万人計画」が推進されていますが、そこでは
「個性的な大学の創出」がますます重要と言われています。個性があってこそ世界との競争の中で
優秀な人材が確保できるからです。
一方、科学技術の変遷に目を移してみますと、エネルギーの多様化は着実に進み、ガソリンエンジンや
ディーゼルエンジンなどの内燃機関で熱を動力源とする自動車から、バッテリーを備えたハイブリッド
自動車が増え始め、今後は更に燃料電池車や電気自動車への移行が現実的な時代となってきています。
内燃機関を用いた従来のエンジンはトランスミッションなどの複雑な機械システムが必要とされてきましたが、
燃料電池や電気で動く車にはそのような機械システムは必要とされず自動車の部品数もかなり減り、
特に機械系の割合が低下するので裾野の広い自動車ビジネスの中にも産業構造の変化が起こると予想されています。
そのような時代を迎えたときに、自動車がどのような技術を将来必要とするかと考えると、安全運転をするために
情報技術の必要性がますます高まるでしょう。信号機にCCDカメラを置いて四つ角で見えない道路から来る自動車や人、
あるいは小動物の接近を知らせる装置が開発されつつあることは皆さんも良くご存知のことです。ただそのような
システムができても、完全にそのシステムに頼り切って四つ角の死角を無視して車が通り抜けてよいかという運転手と
交通システム相互の総合的な信頼性の課題が新たに出てくると思います。安全な社会を作っていくには情報技術は必須ですが、
人と人とを信頼をもってつないでいくという社会との融合性が大切です。そのためには今まで以上に柔軟で高いレベルの
情報技術が求められる時代になってきており、またその技術はグローバルな文化に根ざしていないと役に立ちません。
冒頭に本学の高い国際性を掲げた建学の精神について述べましたが、本学はアジア、ヨーロッパ、アフリカ、オセアニア、
北アメリカ、南アメリカの六大州のうち南アメリカ以外の地域から教員を迎えています。あとは南極なので、
如何に本学が真のグローバルな大学であるかが分かります。
皆さんが明日から進んでいく社会は世界が一体となったグローバルな社会であり、社会が要求している様々な課題は国際的な
視点を持って解決することが求められます。若い皆さんは、今後も自分を更に磨いて逞しく生きていくことと思いますが、
国際的な文化に培われた本学キャンパスで勉学をしたという自信を基に更に才能を伸ばし、新しい時代に大きく花開くことを
期待しております。
皆さんの活躍を心から祈念し、私の「贈る言葉」とさせていただきます。
平成21年3月23日
会津大学学長 角山茂章