このウェブページは,
「放射性沈着過程の調査のための地理空間多変量データの視覚的分析」
に関するプロジェクトの情報を提供するために準備されたものです.
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視覚解析を用いた放射性物質沈着過程の検証 |
2011年の福島原発事故により,
特に大気汚染に対するエアロゾル対策を提案する上で,
放射性物質沈着過程の重要性に対する認識が高まりました.
しかしながら,対象地域がもつ複雑な地形のために,
このような過程を全体像を理解することは困難でした.
本研究では,
地形データとの視覚的なインタラクションを活用し,
放射性物質沈着過程を特定するための応用研究を行いました.
提案するアイデアは,
空間的位置と関連する属性値の振る舞いの対応を視覚的に調査することにあります.
これは,
属性値間の関係を表す散布図を作成し,
その散布図に対応する空間位置をインタラクティブに特定することで,
特定の放射性沈着過程をもつ領域を見つけることを可能にします.
我々の可視化技術は,
異なる沈着プロセスに起因する汚染地域を明確に区別することができ,
沈着過程の分類を行うのに役立ちます.
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結果 |
図1は,本研究で実装した,線量率とそれ以外の属性値の関係を,
対話的に視覚解析を行うシステムを示しています.
ここで,解析対象となっている属性値は,
P:線量率,Q:標高,R:原発からの距離を表している.
図上の矢印は,それぞれ左側の散布図と右の地図との対応関係を示しています.
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図2は,
放射線物質の沈着過程の代表例である,
乾性沈着と湿性沈着の様子を示しています.
乾性沈着は,
放射性物質が乱流や重力沈降により地形表面に落下する領域に対応し,
放射性物質の量は地形表面の高度や複雑さによって決まるため,
対応する分布はランダムに散らばり,
ホットスポットは比較的孤立していることが多いです(図2左).
これに対して,
放射性物質が雨に吸収されて降下する湿性沈着は,
標高に関係なく地形表面に均一に分布する可能性が高いです(図2右).
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私たちは,空間線量率(P),地表からの高度(Q),
および福島第一原発からの距離(R)の3つの属性のうちの2つによって定義される,
2次元の値域空間に地形表面を投影しました.
最初の課題は,
乾性沈着と湿性沈着のそれぞれのタイプに特有のパターンを2次元の値域領域に区分することでした.
乾性沈着タイプの地域では,
乱気流によって放射性物質が運ばれ,
山の上部に蓄積されることがあります(図2の左を参照).
また,
放射性物質は空気中を比較的長距離移動できるため,
沈着量は原発からの距離と大きく相関するわけではありません.
P-Q および P-R の範囲におけるデータサンプルの典型的なプロファイルは,
図3の左側に示されています.
一方,湿性沈着過程では,
放射性物質は降雨とともに地上に落下するため,
高度に関係なく関してはほぼ一定の分布となる(図2の右を参照).
しかし,
放射性物質が大気中を移動する間に降雨に遭遇する可能性は,
原発からの距離にほぼ比例します.
これは,湿性沈着プロセス領域におけるデータサンプルが,
図3の右側に示されているような特定のパターンが値域空間に現れることを意味します.
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Dry deposition | Wet deposition |
図3:
空間線量率(P),標高(Q),原発からの距離(R)を指標とした空間多変量データの値域空間への射影における典型的プロファイル.
乾性沈着(左)と湿性沈着(右)
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図4(a)は,
地図上で乾性沈着型の可能性がある地域を見つけた例を示しています.
この例では,
まず図3の左側を参照しながら,
それぞれの値域ウィンドウ内のピクセルを塗りつぶし,
次に地図上の対応する着色部分と重なる領域を特定しました.
これに対して,
湿性沈着の領域は,
図3の右側のプロファイルに対応するピクセルを着色することで位置を特定しました.
図4(b)の矩形で囲まれた領域は,
そのようにして得られた湿性沈着の領域である.
このように,
まず既知の知識に基づいて対応する典型的なパターンを値域ウィンドウ上に描画し(図3),
次に地図領域上で対応する領域を探すことで,
特定の沈着タイプの領域を分類することに成功しました.
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Paper & VideoShigeo Takahashi, Daisuke Sakurai, Miyuki Sasaki, Hiroko N. Miyamura, and Yukihisa Sanada, Visual Analysis of Geospatial Multivariate Data for Investigating Radioactive Deposition Processes Visual Computer, Vol. 37, pp. 3039-3035, 2021., doi: 10.1007/s00371-021-02248-6 |