Next: 実験
Up: No Title
Previous: 目的
一つの半導体結晶の中で、p形の領域とn形の領域が接して存在するいわゆ
るpn接合は、整流作用などの特異な性質を示し、半導体デバイスの最も基
本的な構成要素である。一般にpn接合によって構成されている素子を半導
体ダイオードという。n領域には多数の自由電子が存在するので、n領
域からp領域へと電子が拡散する。また、p領域には多数の自由正孔(hole)
が存在するので、正孔はp領域からn領域に逆向きに拡散する。これらの拡
散による移動の結果として、接合部のごく近傍のn形側では電子が欠乏し、
他方p形側では正孔が欠乏する。一方、接合部を通して拡散した電子また
は正孔は、互いに異符合の正孔または電子と結合し消滅する。結果として
接合部をはさんでn形側の電子が欠乏した層(空乏層-depletion layer)は、
あとに+にイオン化したドナー原子を残して正に帯電し、p形側の正孔の欠
乏した層(空乏層)は、あとに-にイオン化したアクセプタ原子を残して負
に帯電する。こうして、接合部にイオン化した+-の原子の作る空間電荷
による電界が形成される。このようにして作られた電界は電子あるいは正
孔の、それ以上の拡散を阻止するように働き(電界障壁)、それぞれの領域
でのキャリア数を一定に保っている。
空乏層はキャリアが欠乏している領域なので、言い換えれば絶縁層ともい
える。空乏層は電圧の加わる方向によって広くなったり、狭くなったりす
る。空乏層が広くなるとダイオードの抵抗は大きくなり(逆方向特性)、狭
くなると抵抗は小さくなる(順方向特性)。
Figure 1:
ダイオードの図記号と極性表示
![\begin{figure}
\begin{center}
\leavevmode
\psbox[scale=0.4]{me-ex4-fig1.eps} \end{center}\end{figure}](img1.gif) |
ダイオードはこの空乏層を利用した半導体素子である。図 1に
ダイオードの図記号と極性表示を示す。pnダイオードの場合、p形を
A(Anode)、n形をK(Kathode,Cathode,色帯マーク側)としている。
逆バイアスがある大きさを越えると急に大きな電流がながれる。この現象
を降伏現象(Breakdown phenomena)といい、その時の電圧を降伏電圧
(Breakdown Voltage)という。普通のSiダイオードでは、降伏は数百Vで
生ずる。しかし、p,n領域の不純物濃度を大きくすることにより、数V〜
数十Vの電圧の降伏電圧を持つダイオードを設計、製作できる。これは、
電流が変化しても電圧がほとんど変化しないので定電圧ダイオード(ツェ
ナー・ダイオード)として広く利用されている。
ダイオードに順方向電圧がかかっているときには、n形領域の電子の一部
がp形領域流れ込んで正孔と結合し、p形領域の正孔の一部はn形領域に流
れ込んで電子と結合する。この電子・正孔結合現象は、高いエネルギー状
態にある電子が低い状態に戻る過程に相当する。化合物半導体のpn接合ダ
イオードにおいては、この結合に伴って光が放出される。この光が効率良
く発生し、ダイオードの外に放出されるようにしたのが、発光ダイオード
(LED)
である。
ダイオードの特性測定は原理的には、抵抗を測定するのと変わりない。た
だし、抵抗の場合は、図 2(a)に示すように印加する電圧と流れ
る電流は比例し、いわゆる線形(linear)の関係にあるが(オームの法則)、
ダイオードの場合には、図 2(b)に示すように、電流が流れ始め
るのには一定以上の電圧(立ち上がり電圧-電位障壁を飛び越えて電流が
流れ始める電圧)が必要であり、電圧と電流は比例せず、電圧-電流特性
は非線形(non-linear)の関係になるので、特性測定にはそれなりの工夫が
いる。
立ち上がり電圧は、ダイオード材料固有の値(エネルギーギャップEgの
大きさと共に大きくなる)を持ち、ダイオードを使用する場合、考慮すべ
き値である。その値は
- Geダイオードでは0.2〜0.3V、Eg=0.7eV
- Siダイオードでは0.6〜0.7V、Eg=1.1eV
- GaAsPやGaAlAsなどの化合物半導体から作られている発光ダイオー
ドでは1.6〜1.7V位、Eg=2.0eV前後(組成比により異なる)
Figure 2:
抵抗およびダイオードの電圧-電流(V-I)特性
![\begin{figure}
\begin{center}
\leavevmode
\psbox[scale=0.6]{me-ex4-fig2.eps} \end{center}\end{figure}](img3.gif) |
図 2(b)はダイオードのV-I特性の一例であり、以下のような特
徴がある。
- 120D
- ダイオードの順方向特性(ON状態)
図のように、p形半導体が+極、n形半導体が-極になるように加えた電圧
を順バイアス(forward bias)という。この場合→空乏層は狭くなる→
低い抵抗値→キャリアは空乏層を通り抜け、
相手の領域に達して電流がながれる
ので、これを順方向電流(forward current)という。pnダイオードの電
流-電圧特性は以下のように与えられる(教科書参照)。
I |
= |
 |
(1) |
ただし、
では、
、片対数グラフ用紙上では直
線で表される。
- 220D
- ダイオードの逆方向特性(OFF状態)
p形半導体が-極、n形半導体が+極になるように加えた電圧を逆バイアス
(backward,or reverse bias)という。この場合→空乏層は広くなる→
高い抵抗値→ほとんど電流は流れなくなる。
このときわずかに流れる電流を逆方
向電流(reverse current)という。
従って、逆バイアスされたpn接合は、集積回路などにおいて、ある領域
を電気的に絶縁(isolation)するために広く使われている。
逆方向電流は非常に小さい。シリコンダイオードではnAオーダー
ゲルマニウムダイオードでは
オーダー
Vが大きな負の値では、式 1において、
となる。
参考文献
- 教科書 -「半導体工学」-第3章 3.1 pn接合(61項)
- 教科書 -「半導体工学」-第6章 6.3[2] 発光ダイオード(206項)
- 教科書 -「基礎電気・電子工学」 -第3章 3.3 半導体ダイオー
ド(121項)
Kenichi Kuroda
2000-06-24